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ラジオ番組 みんなの健康ラジオ

骨盤臓器脱の診断と治療

2019年1月10日放送2019年1月17日放送

2019年1月10日放送

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2019年1月17日放送

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1月10日放送内容(放送内容 資料はこちら

骨盤臓器脱とは骨盤底筋群の機能低下により、骨盤内臓器が膣から下垂・脱出する病気です。
脱出する臓器別に子宮脱、膀胱瘤、直腸瘤などとも呼ばれますが単一の臓器だけが下垂することは少なく、骨盤臓器脱(Pelvic Organ Prolapse:以下POP)と総称します。
下垂感に加え排尿・排便・性交障害を伴い女性のQOLを著しく損なう病気で、女性の1割が生涯においてPOPの治療を受ける可能性があるといわれます。

分娩・加齢による骨盤底筋群の損傷、脆弱化また便秘・肥満・生活習慣(立ち仕事、農作業など)による過度の腹圧が発症原因となります。自覚症状は外陰部腫瘤感(入浴時に陰部に卵のようなものを触れるなど)と排尿異常(頻尿・残尿感・排尿困難・尿失禁)が主で排便障害を訴えることもあります。

診断は脱が著明な場合は容易ですが、何度か診察して初めて診断できる場合もあります。
詳細な問診後に内診、経腟超音波検査を施行し子宮・卵巣・膀胱を観察。尿症状がある場合は排尿・蓄尿機能検査を、また必要に応じて鎖膀胱造影やMRI検査も施行します。下垂の程度はおおまかにはステージ1~4の4段階で評価しますが、どの臓器がどれくらい下がっているかはPOP-Q法で定量的に評価します。また高齢者の疾患なので心臓病・高血圧症・糖尿病などの合併症についての評価も必要です。

治療は骨盤底筋体操、ペッサリーリングなど保存的治療から始め、効果がない場合は手術となります。
手術法はメッシュの有無で2通りあり、メッシュを使用しない手術(子宮脱根治術、膣閉鎖術など)は比較的安全ですが再発率が高く、メッシュ手術(TVM,LSC)は再発しにくいがメッシュによる弊害が起こり得ます。
病状、病型により最適な術式を選択します。

1月17日放送内容(放送内容 資料はこちら

骨盤臓器脱の保存的治療のなかでもっとも有効なのはペッサリー治療です。
合成樹脂性の円形リングを腟内に留置することにより骨盤内臓器の下垂を抑えます。
外来で簡便に行え、手術困難なハイリスク症例にも施行でき、フィットすれば手術と同等の効果がありますが、定期的なリング交換が必要で長期使用では腟壁びらんや潰瘍が発生することもあります。

ペッサリー不適例や長期になる場合は手術を検討します。
手術療法では、腟式に子宮を摘出し腟壁を縫い縮める子宮脱根治術が一般的でしたが、再発率が高く(20〜30%)、近年ではメッシュを使用した手術が普及しています。
2005年に我が国に導入されたTVM(Tension free Vaginal Mesh)手術はメッシュ手術の嚆矢で、経腟的にメッシュを膣粘膜下におき固定する方法です。子宮を温存でき再発率は6%と低いですが、メッシュの異物反応による弊害が起こる場合があります。
少し遅れて導入されたLSC(Laparoscopic Sacral Colpopexy)手術は腹腔鏡下に子宮体部を切断し、残った子宮頚部断端にメッシュを貼付し仙骨前面に縫合固定する方法で、腟壁にメッシュをおかないため術後性交障害が少なく欧米ではTVM手術に代わり脱手術の第一選択になっています。

手術は年齢、合併症、病型、性交の有無等をよく検討し術式を決定します。術後も再発、メッシュの観察のためフォローアップが必要です。
高齢化社会が進むわが国では、今後確実に骨盤臓器脱患者は増加しますが、骨盤臓器脱は病気であり治療によって改善されるということが周知されているとは言えず、受診をためらう潜在的患者は多く、さらなる患者啓蒙と医療者の研鑽が必要です。

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