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胃がんに対する治療戦略

2019年1月24日放送2019年1月31日放送

2019年1月24日放送

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2019年1月31日放送

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1月24日放送内容(放送内容 資料はこちら

本邦におけるがんのトップの座に長年君臨してきた胃がんは、生活環境の改善ならびにピロリ菌の除菌により、その発生数は著しく減少してきた。現在、年間の胃がん罹患者数は10万人とされているが、30年後には現在の20%前後になると考えられている。しかし、依然として多くの患者さんが胃がんに罹患し苦しんでいるので、進行度に応じた適切な治療を行う必要がある。
本邦においては、胃がん取扱い規約とガイドラインが診療上、非常に重要である。それぞれ第15版、第5版が発刊され、これまでの膨大なデータの解析から至適な規約、治療指針が提示されている。進行度別に治療方針を概説する。

1. 早期胃がん

進行度Iと診断された症例中、リンパ節転移がないと考えられる早期胃がんが内視鏡的治療の適応となる。以前よりも適応が広がり、多くの患者さんが胃を温存しながら胃がん治療を完遂させている。
また、内視鏡的治療適応外の進行度I症例に対しては、リンパ節郭清を伴う外科切除が選択され、腹腔鏡下幽門側胃切除術が推奨されている。しかし、腹腔鏡下胃全摘術、噴門側胃切除術の有用性は、現在進行中の多施設共同研究の結果により明らかになるであろう。本邦において年間5万件前後の患者さんが外科治療を受けているとされているが、うち1万5千件近い患者さんが腹腔鏡下手術を受けていると推測され、益々その数は増加すると考えられる。

2.切除可能進行がん

進行度Ⅱ,Ⅲ胃がんに対する治療方針は開腹胃切除術が標準である。がん占居部位、腫瘍径、周囲のリンパ節腫大の程度で、術式が決定する。本邦における外科手術手技は諸外国と比較して、非常に質が高いと評価されており、いわゆる5年生存率は諸外国に比して良好である。一方、進行度Ⅲ症例の治療成績は、未だ満足のいくものではない。本邦では、TS-1という経口薬(抗がん剤)を術後1年間内服する術後補助化学療法が標準とされてきた。しかし、最近ではTS-1+αという併用療法がより効果的との成績が発表され、進行度Ⅲの中でもより進行した症例には併用療法が施行されている。
また、研究段階であるが、術前に抗がん剤を投与して、より治療成績を改善しようとする試みが行われている。今後の検討が待たれる。

1月31日放送内容(放送内容 資料はこちら

3. 進行度Ⅳ

進行度Ⅳ症例は、広範なリンパ節転移、遠隔転移、腹膜播種など、外科手術の適応とならない状態にまで進行してしまった症例を指す。よって、治療の第一選択は化学療法(抗がん剤)となる。現在、ガイドラインでは腫瘍の特性に合わせ、一次治療、二次治療、三次治療と推奨される化学療法の薬剤が表記されている。臨床試験などを除き、多くの施設では推奨薬剤を順番に使用しているものと考える。しかし、患者さんの年齢、全身状態、社会的背景などを勘案し、十分に相談の上、化学療法の適応、薬剤の選択などを行うべきと考える。
また、ノーベル賞を受賞した本庶先生が開発した免疫チェックポイント阻害剤が胃がんにも効果が認められ、大きな注目を集めている。現時点では、三次治療として承認されており、制約がある。しかし、様々な臨床試験が行われており、その適応が拡大する事が期待される。
さらに、最近ではプレシジョンメディシンという概念が進み、それぞれの患者さんのがん組織の遺伝子解析を行い、その結果に適合した薬剤を使用するというものである。まさに、テーラーメイド医療が現実なものとなってきた。今後、さらに広がりをみせ、多くの患者さんが恩恵を受けるものと推測される。

4. 将来展望

外科領域においては、ロボット手術の発展に期待が寄せられている。現在、胃がんをはじめとする種々の疾患が保険適応とされている。その有用性がさらに証明され、広く治療に応用されることを期待したい。

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