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その10:女性医師のいる科では

これは正式な取材ではなく、廊下で出くわしたとある教授のぼやきです。

とある教授A:イヤー、先日は僕の術式を取材してくれてありがとうね、コユリさん。あれから、コユリさんの署名記事には、目を通すようにしているよ。「コユリ記者のインタビュールーム」もなかなか面白いねえ。いいところに目を付けましたね。しかし私の科にももちろん女性がいるのですがねえ、コユリさん。出産、育児で女性医師がドロップアウトしてしまうケースが多々あるんですよ。ドロップアウトしなくても、当直のある病院では常勤として働くのは無理と断られてしまったり。そうこうしているうちに、家庭に入ってしまって、医局からはいなくなる。当直に必要な大きな病院全体としての損失は大きいと思いますねー。何とか女性医師が働きやすい環境を整えることが大切と思っているんですがねー、もちろん。しかし根本的に、一旦、長期に休んでしまうと、現状、当直のある大学病院や関連病院に女性医師が戻ってくることは、かなり困難ですねえ。実際、大きな病院は給料がいい訳でもなく、しかるに当直はある。重症な患者さんも多かったりで。こんな条件で戻って来いと言ってもねえ、申し訳ないですよね。私は完全に諦めておりますよ。家庭を持った女性医師には、非常勤で大学や関連病院のお手伝いをしてもらう、または、当直のない関連病院に何とか常勤で行ってもらう位しか求められないのが現実です。もう、本音を言えば、男性医師の入局者が増えることを願っておりますが。こんなことを言って誠に申し訳ありませんが、やはり、バリバリ当直もできる健康な男性医師が増えることを切に願ってしまいますねえ。コユリさん、こんなこと書かないでよ。うちの女の先生、こわいんだから。

コユリ:はーい。

とある教授B:ユリさーん。「コユリ記者のインタビュールーム」、いつも興味深く読ませていただいておりますよ。 これはわれわれの科でも重要な課題なのです。私も今年から積極的に取り組んでいくつもりです。われわれ外科では、なんとかずっとメスをもったまま最前線で輝く女性外科医を育てたいのです。私の妻は医者ではありませんがフルタイムで働いていて、しかも転勤で単身赴任していることから、私が家事全般を行ってきたんですよ。子供の世話くらいですがね。まあ、私のやることですから、家のなかはいつもグシャグシャですがね、ははは。しかし、コユリさんの取材でも女性医師がおっしゃるとおり、家事は大変です。まったく同感です。女性医師と結婚した医者も私の科にいますが、私のように家事を手伝っているんでしょう。専業主婦の方と結婚した医師とは全く違う人生を歩んでいますねえ。この人たちが同等な働き振りをする上でも、家事や育児の補完は重要な課題なんですよ。しかも、いわゆる喫緊。朝、子どもを保育園に送ると病院に来るのが8時は過ぎてしまう。これから手術だというのにぎりぎりの当院でも困りますしね。かといって、配偶者の女性にすべて任せるわけには行きません。同じような仕事をしているのですからね。キャリアをつなげたいのは同じでしょうし。
是非これからも発信を続けてくださいね、コユリさん。

コユリ:はーい。

とある病院の院長先生:(電話)うちの病院はねえ、救急に重きを置いてんのよ。だから、女の先生嫌がっちゃって、来ないのね。当直は週1~2回あるし、呼び出しもしょっちゅう。子持ちには無理なのね。だから、取材に適した女の先生、いないの。いい?

コユリ:でも、その代わりといっちゃあなんですが、男の先生が余計に働いているんですよね。女性医師問題にご関心がないわけないですよね。特に院長先生なんか。女性医師が働きやすくなれば、男の先生も少しは楽になるんじゃあないですか?

とある病院の院長先生:あんた、なにいってんの。そんなの誤差範囲、誤差範囲。

コユリ:じゃ、麻酔科とか、時間で分けられる科の先生ではいらっしゃらないですか?

とある病院の院長先生:麻酔科もねえ、確かに女性の先生が多いから、人手は足りているように見えるけどね、夜だよ、夜。夜に麻酔をかけるのは男の医者になっちゃってんのよ。しかも救急車が何台も来るわけ、夜中でも。重症患者さんの緊急手術とか、術後管理とか、若い男の先生が寝ないでやってるの。子どものいる女性がどうやってやるのよ。

コユリ:夫に頼むとか。いくら当直でも毎日じゃないでしょ。半分家事とか育児とかやってもらえば…(ガッチャン)
ひえーっ、電話切られた。それだけ大変な職場なんだ。でも、これじゃあ、女性医師の働く場所って、どうなっちゃうんだろう。反対に、どんなに医者を増やしたところで、院長先生の病院のような働き方をする科や部署は残るだろうし…。男の先生だって、希望しない人はいるだろうから、そんなところで働く人は、腕力体力気力があって、その上やりがいだけを求めるようなタイプなんだろうな。えらいなあ。院長先生がたくさん給料やってるように思えないし。給料上げろなんていったら、吹っ飛ばされそうだ。おー、すごい迫力だった。しかし、医者の数増やしたって、これじゃあ、ハードに働く人はいなくならないし、そういう職業なのだし。とすると、医師不足や、医師の過労は女性医師が増えたせいじゃないじゃない。)

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