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その11:女性医師の夫たち

コユリ:それでは皆さん、本日はお集まりいただきましてありがとうございます。「月刊フォト」のコユリです。「コユリ記者のインタビュールーム」で女性医師にインタビューを重ねてまいりましたが、男性医師の、とくに女性医師の夫としてのご意見を承りたく思いまして。

杉田新先生:杉田新です。確かに家内は医師ですが、子どもが2人いるので今は働いていないから、コユリ記者さんの取材対象としてふさわしいかなあ。

コユリ:いえいえ、とんでもない。先生のご意見もぜひとも伺いたいです。大船先生は?

大船洋先生:僕の妻も医師をしていますが、現在は非常勤です。僕でもいいですか?そういう意味では根岸先生のほうがいいかもしれません。

根岸幹先生:根岸です。家内は現在常勤職ですが、非常勤をはさんでいます。

コユリ:あ、根岸磯子先生のご主人ですね。

根岸幹先生:そうです。

本郷光先生:そういったら、僕なんか結婚していないんですけど。

コユリ:ぜひとも、独身の先生にもうかがいたいのです。それではまず、杉田先生、奥様は仕事をやめておられるとのことですが。

杉田新先生:ええ、子どもは2人で、家内も僕も両親が遠いところに住んでいて、援助は仰げません。僕の仕事の異動もあって、どちらがやめるかになった際に、話し合いをして家内が一時ですが、仕事をやめることにしました。

コユリ:全面的にですか?

杉田新先生:はい。ただし、ある程度子どもに手が離れたとき必ず復帰するということで。

コユリ:そうなんですか。では、その話し合いの中では先生が辞めて子どもの世話をするという選択肢もあったのですか?

杉田新先生:いえ、実はもちろん話し合いの中では出ましたが、そういった選択に関しては、枠外、という感じではありましたね。

コユリ:というと?

杉田新先生:僕が仕事をやめるという選択肢は選ばれないということです。僕は仕事の移動の際、単身赴任でも行く事を決めていました。手術件数も多いし、勉強になります。僕が乳飲み子を連れてその病院に赴任するという像は全く描けませんでしたし。

コユリ:奥様は?

杉田新先生:家内は仕事を続けたいと思っていましたが、子どもを母乳で育てたいと考えていました。そうなると、授乳期間はそばにいないとならない。自分を育ててもらったように子どもを育てたいと思っているようでしたから。僕は保育園とか、ヘルパーさんとかもいるし、頑張れるのではないかと思ったりもしたのですが、育児はともかく、2人がフルタイムで働きながら、家事を家内がするのは無理だと思いました。

コユリ:先生が家事をするというのは?

杉田新先生:僕の家も共稼ぎでしたから、やってもいいとは思って育ったのですが、心臓外科を選んだとき、その道は絶たれましたね。手術前のカンファランスに出ないとならないから、朝早いし、夜は結構遅いし、もちろん呼び出しもある。

コユリ:大変ですねぇ。

杉田新先生:いや、皆さん、そういわれるのですが、呼び出されて何ぼですよ。声がかからなくなったら、お前は下手だということですからね。それに、外科医は手術できて何ぼ。定時手術の数は限られていますが、緊急手術は飛び入りです。出番が来るというわけです。それに、こういう働きぶりは若いうちしかできません。

コユリ:そうなんですか。お好きなんですね、お仕事が。

杉田新先生:そうですね。好きな事ができるわけですからね。幸せなことです。

コユリ:奥様はお仕事はお好きですか?

杉田新先生:もちろんです。だから、今、僕が仕事をしていて、家内ができていないことについて、申し訳なく思っています。2人目の授乳期が終わって家内がフルタイムで復帰するときには、全面的に協力しようと思っています。

コユリ:どのようにですか?

杉田新先生:僕が早く帰れればご飯を作ったりしたいと思いますが、あまり現実的でないので、やはり、ここは割り切って、炊事や掃除にはアウトソーシングを導入して、かかる費用は僕が多く払うことにします。家内が疲れず子どもの相手をしてやれる体力と時間を温存したいと思います。そのために、僕は働きます。贅沢もしません。

コユリ:それでは、根岸先生はどうですか?

根岸幹先生:僕のところは今常勤ですが、非常勤で働いてもらったこともあります。僕も仕事の都合で遠いところに留学だったので知らない土地でしたし、夫婦2人で子どもをみるのに、非常勤職になりましたし、そのあとの復帰も、ずいぶん不利になったようで、頭があがりません。

大船洋先生:杉田先生も根岸先生も愛妻家だからな。

根岸幹先生:なに言ってんだ。大船先生こそ、奥さんはずっと、常勤職で働いているじゃないか。愛妻家じゃなくてなんなんだい。

大船洋先生:本僕は愛妻家ではありません。恐妻家です。

根岸幹先生:恐妻家なんですか。そういえば、キョーサイ組合というのがあるそうですね。

大船洋先生:僕は組合長です。

コユリ:キョーサイ組合の。

大船洋先生:はい、きっぱりいえます。

コユリ:どうキョーサイなんですか?

大船洋先生:どうもこうも、すべてに渡って、イーブンにしないと怒られます。

コユリ:すべてっていうと。

大船洋先生:家事も育児も、炊事も洗濯も、全部交代交代です。全く半分。

コユリ:根岸先生や杉田先生とは違う?

大船洋先生:全く違いますね。ご飯も作るし、お風呂も入れる。掃除もやるし、洗濯も。

コユリ:ひえーっ、万能ですね。でも、お仕事との兼ね合いは?

大船洋先生:仕方ないでしょう。一時のことですから、それは医局の中でもお互い様でやっています。女性医師もいますが、男性医師もいて、女性医師と結婚した男性医師もいる。全体で補っていくようにしています。子どもの手が離れてきたら、あとは家事だけです。ただ正直、保育園の送り迎えはきついですね。

コユリ:そんなことがですか?家事よりも?

大船洋先生:家事も育児も自分が頑張れば何とかなるのですが、保育園の開園、閉園時間は動かせませんからね。朝はカンファランスに間に合いません。

コユリ:遅刻してしまうんですか。

大船洋先生:そうですね。つらいところです。

コユリ:今のお話を聞いて、本郷先生はいかがですか?

大船洋先生:結婚恐怖症になってしまうかな。

本郷光先生:そうですねー。だいぶ過酷ですね。聞きしに勝るというか。先生方のお話をうかがうと、確かに怖くはなりますね。でも、医局で先生方にもう少し親切にしようという気持ちがわいてきました。やはり、結婚していないと自由にできますが、その分、何でも降りかかってきたりしますし、当直や呼び出しも、遠慮ないところがあると思います。ただ、それは勉強だと思っていますから、苦にはなりませんけどね。いい医者になるには若いうちに修行を積まないと。経験科学ですからね、臨床は。

コユリ:悟ってらっしゃるんですね。先生方のお話をうかがうと、医者のイメージが変わりますね。お金とか稼ぎたくないんですか?。

本郷光先生:そりゃあ、お金をほしくないといえばうそになりますが、経験というのはお金では買えませんからね。上の先生や患者さんからの信頼とかも。

コユリ:先生は結婚なさるとすると、専業主婦?

本郷光先生:まだ、考えていませんね。たまたま、結婚する人が働く女性だったら、それでいいし、専業主婦をしたいといえば、それでもいいし。

大船洋先生:あてはあるの?

本郷光先生:いやー、全くないですね。出会いがないですね、これといって。遊びにいって見つけるような暇もないですしね。

コユリ:じゃあ、働く女性だったら、家事や育児はどうするんですか。先生も半分おやりになる?

本郷光先生:半分やってほしい人だったら、半分やろうとはすると思いますが、そのときにその科でどんな立場かとか、患者さんからどんな医者であることを期待されている かにもよりますね。逆に、結婚相手もそういった職業である場合、やっぱり、落しどころというのを模索するしかないですが。ただ、今の状況は、かなり厳しい ですね。やはり、何らかの援助や補助がないと。

コユリ:そうですよねー。

次週に続く!!

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