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その4:女性医師はどうしているのか

磯子先生:はじめまして。コユリさんですね。このたびは私のような者にお声をかけていただき、ありがとうございます。

コユリ:はじめまして。根岸磯子先生ですね。お子さん2人を持ちながら医師を続けておられると聞きました。東神奈江先生からのご推薦です。

磯子先生:そうですか。出産・育児というのは個人的なことですが、仕事を続けるためには職場、社会の理解・支えなくしては不可能だと感じておりました。本当に細々とですが、私のこれまでの勤務状況と、その中で感じたことなどをお話させていただきたいと思います。
(こんな小柄な先生のどこにお子さん2人を育てながら働くバイタリティーが隠れているのだろう。しかも、取り組みがハンパナイ!って、はんぱじゃないっていう現代語。)
私は大学病院で研修を始めた翌年第一子を出産しました。産前6週、産後8週休暇をとり、研修に復帰、当直のみ、免除していただきました。子どもは認可保育園に空きがなく、認定保育室を利用しました。当時、研修修了の条件として病休ふくめ休みは90日以内ということだったので、産休をいれると本当にぎりぎりで研修を修了しました。翌年、夫の留学で入局先を1年間休みました。夫の留学先では研修登録医といって登録料を支払って研修させていただくという身分で週2-3日、大学病院や一般病院で働きました。子どもは地元保育園の一時保育を利用しました。横浜に戻ってからは常勤特別職として、当直は月2回、平日は18時ごろまでには病院を出ていましたが、週に1回、急患当番の日は夫に迎えを頼み、仕事を終わらせて帰りました。子どもは院内保育所を利用しました。子育てサポートシステムの人に週1回2時間来てもらっていました。自給900円程度でしたが、原則、子守役なので、家事の手伝いはしてもらえず、あとから思うとやはり高くてもヘルパーさんのほうがよかったと思います。
第2子出産の時は妊娠4カ月ごろから当直を免除していただきました。産前6週から産休に入り、産後8週を待っていったん常勤職は退職となりました。小児科非常勤医として復帰してからは週1から 2回、一般外来にでました。家計は非常勤の日給が1万3千円弱ですから週1回なら月4~5万円、保育料が二人合わせて月7万5000円だったので、週2回働いてなんとかプラマイ0という状態でした。少し余裕ができてから平日は基本的に勤務に出るという体制で、小児科専門医をとりました。長女は認可保育園。長男は同園に入れず、院内保育所を利用し、送りは夫が担当してくれました。週1回2時間、月2万円程度、ヘルパーさんを頼んでいます。

コユリ:大変ですねえ。そのようにやってきていかがでしたか?

磯子先生:保育環境について思うことは、まず認可保育園に入ることの難しさですね。
4月入所の申し込みでは、前年11月時点での勤務実績が入所の優先順位に反映されるため、いったん退職、もしくは非常勤になると、常勤に復帰する際にも実績がないため保育園にいれるのが困難です。とくに2人一緒に保育園にいれようと思うと至難の業で、現在も長男は長女の保育園への入所待機の状態が続いています。4月から、10か月たっても空きは出ません。育児休暇制度を使えば、入所申込の際には休暇に入る前の勤務実績が認められるため、同じように1年休んだ後でも保育園に入りやすいですが。

コユリ:病院の保育園が最も便利ですよね。

磯子先生:そうなんですが、院内保育園の利用しにくい点として、まず、非常勤では利用できません。うちの病院では女性医師支援のための非常勤採用枠というのを設けており、私もそれを利用していたのですが、非常勤枠では保育園の利用を認められない。それでは、いくらワークシェアリングといって採用枠を設けても保育園が利用できないことになります。

コユリ:はあ、仏作って魂入れず、ですね、まさに。

磯子先生:その通りです。それに兄弟での利用が認められません。兄弟を別々の園に預けるのは時間・体力・お金などのロスが大きくもったいないです。もともと院内保育園は3歳未満が対象であり、兄弟入所をするとしてもそれはわずかな期間だけであり、ぜひとも認めてほしいと思います。

コユリ:まったくですね。ついでに兄弟割引もあるべきですよね。それと、小さい時って、すぐに熱を出したりしますよね。そんな時はどうしましたか?

磯子先生:はり、仕事をしていて一番困るのは子どもの病気です。予測ができず、見通しも立てにくいので。横浜では病児保育はまだまだ一般的に利用できるほど数がありません。うちの病院には病後児保育があり、心強いですが、やはり基本的には熱のない子どもが対象であり、急性期には利用できません。理想的には病気のときくらいは親としてそばにいてやりたいと思いますが、安心してみてもらえる場があればどれほど助かるだろうかと思います。

コユリ:そうですよね。病院も目と鼻の先、おかあさんもそこで働いているとなれば、原則は原則として、話は別ですよね。あと先生方は夜遅くまで働かれますが、そのあたりはいかがですか?

磯子先生:このごろは認可保育園でもかなり遅くまで利用でき、長女のところは20時までです。院内保育所では休日・夜間保育なども行われ始めています。それによりとても助かっている人がいることは確かだと思いますが、ただ私は、今後さらにその流れが進むことには危惧を覚えます。「24時間365日子どもを預けられる」「昼食はもちろん、朝食も夕食も食べさせてもらえる」院内保育所のある職場というのは、本当にすばらしい職場でしょうか?0~3歳くらいの本当に小さい子どもをもつ母親にとってよい職場とは、「子どもを遅くまで預けないで済む」「朝食、夕食は家庭で子どもとともにとれる」働き方ができる職場だと思いますが、どうですか、コユリさん。
(そういって、磯子先生は私の目を見ました。その目はどこかで見たことがある、そうだ、浜子先生。浜子先生はずっと常勤職で働いてきたから、お子さんはどうやって育てたのだろう。浜子先生も、磯子先生のように、子供のそばにいたかったのだろうか。一緒に遊んでやったり、ご飯を食べさせたり。浜子先生の目は磯子先生にも増して、私の心に刺さるものだったんだけど。後悔とか、しているのかなあ。そうだ、最後に浜子先生に取材かけてみよう。)

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