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その5:女性医師の職場環境について思うこと

コユリ:さて、先生のご職業では職場復帰の難しさもよく言われていますがいかがですか。

磯子先生:私が勤める大学の小児科は人数も多く、産休・育休をとることに関しては比較的恵まれた環境にあると思います。しかし、問題はそのあとです。私は昨年、職場復帰をしようとしましたが、当直含めフルに近い形で働けないと復帰する場がないと言われました。もう少しキャリアを積んだ、専門外来などができる先生であればまた違うのでしょうが、私のように研修途中の身ですと、非常勤という道さえもほとんどないとのことでした。女性医師が仕事を続けられるかどうかは、産休や育休をとったあと、いかに復帰できるかにあると思います。そこのハードルが高すぎると、続けたくても続けられない人が出てきます。仕事を休むことは、ある意味では簡単です。職場としても、中途半端な働きしかできない人をカバーしながら働くよりは、いっそいないほうが楽な部分もあると思います。しかし、その間本人が努力し、職場の方々にも助けていただくことで、医師のキャリアを積むことができるのだから、それは必ず職場に還元されると思います。

コユリ:それでは、先生の考える理想的な働き方とは?

磯子先生:ワークシェアや非常勤勤務は、女性医師の選択肢を広げる貴重な働き方だと思います。とくに、産後、仕事をゼロにする期間をできるだけ短くするという意味では、とても有効だと思います。また、一線を退いて、自分のペースでできる範囲で、というときにもいいと思います。しかし、まだまだこれから研修を積んでいきたいと願うものにとっては、やはり常勤復帰が課題です。私は、週2日、8時から18時まで、という勤務よりは、平日毎日9時~17時という勤務のほうが、本人にも研修になるし、子どもも保育園での生活のペースがつかめるし、その先につながっていくと思います。お給料は安くてもいいから、子どもが小さいあいだ、当直なしで、平日も保育園への送り迎えが可能な勤務をしたいと思います。もちろん、そのためにはやはり単独主治医になるのは無理で、グループ制などでなければできないと思いますが…。

コユリ:いろいろな問題はあるというわけですか。

磯子先生:そうですね。長女を産んだばかりのころは、なんとか周りの方々に理解していただき、お世話になりながら仕事を続けていくことを考えていました。しかしその後、たんに周りの理解に甘えて頼っているだけではだめだ、システムとして女性医師が働ける環境が整わなくては、と思うようになりました。たとえば、当直なしで働く女性医師は基本給を下げ、その分を他のスタッフに還元するなど、女性医師は支えてもらうことに代価を払い、他のスタッフはそれを受け取るような、目に見える形でのシステム整備が必要なのではないかと。しかし最近は、もはや自体はお金だけで解決することでもないのだと思うようになりました。子どもをもつ女性医師だけでなく、男性医師の中にも、家族やプライベートの時間を大事にしたい、お金をもらっても当直などは増やしたくないという先生が増えてきているように感じます。しかしそれは、チャンスでもあると思います。つまり、女性医師のための特別な働き方を用意するだけでなく、医師全体の働き方を考える機会だと思うのです。今はまだ非現実的かもしれませんが、たとえば平日のオンオフがもう少しはっきりして、当直じゃない日はある程度遅くならずに帰れるようになるなど、全体のハードルが下がることで、女性医師もぐっと参入しやすくなると思います。短期的には人員の問題、お金の問題など難しいと思いますが、働く環境が改善されれば、必ず医師のモチベーションは上がり、病院にも還元されると思います。

コユリ:先生はいろいろなご努力をなさりながらお2人のお子さんを持って働いておられる。そこまでして医師を続けるのはなぜですか?

磯子先生:そうですね。もちろん大変なこともありますが、私は、子育てをしながら仕事を続けられることは幸せなことだと思っています。そしてその幸せは、家族・職場の方々の支えの上に成り立っているものです。今、私がお世話になっている分は、とくにこれから同じように働こうとしている後輩たちに還元していかなくてはいけないと思っています。同じくお子さんを育てながら、常に第一線で仕事を続けてこられ、今も臨床のみならず教育・研究の分野でもご活躍の先生の前では、ただただ自分の努力が足りないばかりだと思うところですが、子育ての最中にあって、仕事を続けるだけで精一杯の今、保育や職場環境について思うことはあっても、その思いをどこにどうもっていっていいのかわからないような状況でしたので、このような機会をいただき大変うれしく、ありがたく思います。

コユリ:いえこちらこそ。

磯子先生:今の自分をふがいなく思ったり、周りの申し訳なく思ったり、自分の考えが甘いだけなのではないか…という思いもあります。どのようなやり方がいいのか、自分でもわからないまま手探りで進んでいるような状態です。私にとって、やはり一番大切なのは愛する家族です。しかし、仕事も一生やっていきたいと思っています。それが義務でもあると思っています。同年代の医師と比べ、焦ったり不安になることもありますが、今は自分にできる範囲で仕事を続け、とにかく辞めずに、時間はかかっても一歩ずつ前に進んでいければ、と思うようになりました。当直や平日の夜など、子どもがいないものとしての勤務はできませんが、少しセーブをかけて、でも責任をもって仕事をし、研修を重ね、患者さんや後輩に恩返しをしていきたいと思います。

コユリ:先生、私もきっといい記事にして、先生の思いを読者に伝え、何らかの形で実効性を発揮したいと思います。(磯子先生もすっごい使命感だ。えーん。涙、涙。よし、私もがんばるぞっ。)

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