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法医学から形成外科学へ


髙田 女里先生
(旭区:形成外科)

 聖マリアンナ医科大学形成外科学教室の髙田女里です。私は神奈川で生まれ、これまでの人生の大半を神奈川で過ごした生粋の神奈川県民です。中学校へは横浜市にある祖父母の家から通ったということもあり、横浜は身近な街であると同時に、今では夜景を観に行ったり、家族で食事に出かけるような特別な街でもあります。
 現在、私は形成外科学教室に在籍していますが、昨年までは法医学教室におりました。
法医学の道へ進むきっかけとなった事件は、メキシコ在住時の小学校時代に起こりました。メキシコは盆地かつ高地であることから、大気汚染による健康被害や高山病の危険性が高く、予防のため週に一度低地へ行くよう勧められていました。その日も父の運転で家族全員海へ向かっていたのですが、山間の休憩時、突然強盗に襲われたのです。助手席に座る母にピストルが突き付けられた光景は、今でも脳裏に焼き付いていて忘れることが出来ません。金品を奪われただけで、奇跡的に家族全員怪我もなくその場からは逃れられたのですが、その後しばらくは人とすれ違うことすら恐怖でした。


秋田大学医学部卒業式
 中学受験のため日本へ帰国し、地元の県立高校へ進学後、大学受験の時を迎えました。父と同じ法学部へ進学し法曹になりたいと思い、慶應大学法学部に入学しました。様々な法律を学ぶうち、医療と関連する法律が多々あることを知り、法医学に興味を持つようになりました。法医学の講義では、殺人や事故で亡くなられた方のご遺体や悲惨な現場の写真ばかりが注目されがちでしたが、解剖から得られた真実によって、無念にも亡くなられた方の生前の人権を守ることができるところに大きな魅力を感じ、法医学者になりたいと考えるようになりました。メキシコでの事件を通して感じた悔しさや恐怖心を原動力とし、犯罪被害者の声を聴くことができる法医学者になる。そう決意し、慶應大学卒業後、秋田大学医学部に学士編入学しました。

 医師免許取得後は、地元神奈川に貢献したいと考え、聖マリアンナ医科大学で初期臨床研修を行った後、同大学の法医学教室に入局しました。大学院在学中の四年間に、無理心中や医療過誤、虐待等で亡くなられた方の解剖をさせていただき、法医学者となるきっかけとなった志を全う出来たと思います。解剖の傍ら研究にも励み、先生方の熱心なご指導を賜ることにより脂肪塞栓症候群をテーマとした論文を仕上げ、学位を取得することも出来ました。一方で、法医学教室で扱うご遺体の実に半数以上が独居の高齢者であり、死後かなりの時間が経過してから発見される方ばかりでした。このような場合、男女の区別をつけるのがやっとであり、身元確認はおろか死因すらわからないことがほとんどでした。超高齢社会の日本では仕方のないことだと理解しつつも、腐敗による影響が強く、検査を行っても結果が分からないような状況に強い憤りを感じることが多くなり、しばらく法医学から離れようと決断しました。
 その後の進路に悩んでいた頃、現在所属する形成外科学教室の先生方と出会いました。数回の体験入局を通じて、ダイナミックさと繊細さを兼ね備えた形成外科の魅力にすっかり取りつかれ、大学院卒業を機に形成外科医としてこの先の医者人生を送ろうと決めました。

 形成外科医としての生活はまだ始まったばかりですが、先天異常や顔面骨骨折、乳房再建など様々な手術に参加させてもらい、生きがいを感じています。外科の世界は体力勝負の面も多く、男性と同じ仕事をこなせない自分が腹立たしく、歯痒さを感じることもありますが、しばらくは周囲に迷惑をかけつつも、一日でも早く一人前の形成外科医となれるよう、自分なりに精進していきたいと思います。

横浜市西部病院形成外科 左:筆者、中央:田邊主任医長、右:岩本医長

左:梶川教授、右:筆者