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私の来た道・往く道


豊福医院 豊福 深奈 先生

 卒業した大学の内科医局に私が入局した時期は、「女性総合職」が創設され、「女性の職場での待遇と責任が大きく変わる」とされた時期でした。その以前から「警官、消防士、弁護士、医師などは、もともと賃金の男女差が無いのだから、仕事も男女差なく全うするべきだ」という教えがあり、医師という職業に就くからには、覚悟をもって仕事に臨まなければいけないと考えていました。
 入局した内科は循環器内科でしたので、24時間急性心筋梗塞に対応する体制がとられていました。病棟の担当患者の診察や手技の習得、教授回診、助教授回診、教授外来陪席、配属された心電図班での検査結果の評価・研究に加え、大学内の4つの内科が輪番で行う3次救急の当直があり、さらに病棟当直もあり、体力勝負の日々でした。
 大学病院での研修を終え、国立病院に出向した後に、医師である夫とともに夫の地元である横浜の民間病院に勤務することになりました。大学病院での勤務に比べ、時間的な余裕もでき夫とふたりの家庭らしい生活を営むことができるようになりました。

やがて、二人の娘に恵まれました。育児休暇制度が無い時代に2回の出産とも産前6週・産後8週の休暇だけをとり、常勤・非常勤と勤務形態を変更しながら医師の仕事を継続しました。育児期間中は、娘二人の感染症との闘いに頭を悩ませる日々でした。東京に住む実家の母に自宅まで来てもらったり、預けに行ったりしながら、仕事を休まないことだけを目標に、綱渡りのような気分で過ごしていたように思います。娘たちが学齢に達すると、それぞれの受験に対応を迫られることになりましたが、私自身の道を突き進むことが最優先事項であったので、「お受験ママ」としては落第だったと思います。
娘たちの幼稚園や学校で知り合いとなった「ママ友」とのお付き合いは、仕事をする日常を主たるものと考える私にとって、非日常の楽しい、女性らしい世界を教えてもらえる貴重な時間です。それぞれの子供たちが異なる方向に巣立ったあとの現在もお付き合いを続けて頂いています。育児期間の途中から、夫が実家の医院を継承することとなり、それまで、舅と姑が行っていた医院の経営を私たち夫婦で行うようになりました。日々の釣銭の用意、レセプトの点検、法人会計の処理、スタッフの採用・給料計算などなど、開業医ならば当然処理すべき事柄のすべてが私の業務に追加され、医師と医院経営者の妻の役割を担うようになりました。医師になると決めた日に、このような多岐にわたる一般業務をこなす日々が訪れるとは想像もしていませんでした。夫と二人でやっと一人前のような医院経営も何とか遣り繰りし、義父が開業した年から数えて創立50周年を昨年無事に迎えることができました。
 現在、医院の仕事とは別に、2件のクリニックで外来診療を担当させて頂いたり、特養の配置医師を務めたり、
ケアプラザの協力医をしたりと、席の温まる暇を作らない方針で仕事をしています。2年前からは、港南区医師会の検診研修部の事業部長として、区の医師会事業にも参加しています。
 ここまで、医師となってからの私の来た道を、簡単に仕事、育児に関して書き留めてきました。残る「家事」ですが、「掃除はしなくても死なない」、「家族4人で散らかした物を一人で片付けきることは困難」などとうそぶいて、適当に丸く掃除をし、洗濯は洗濯機に任せています。食事だけは、自分が口卑しいため、食べたい物を食べたいように作ることが大好きです。食の勉強と称して、食べ歩くことも好きなため、エンゲル係数が非常に高く、働けど働けど暮らし楽にならずとは、我が家の事です。
 仕事と家事・育児のバランスを私なりにとりながら、夫との結婚生活は、今年の10月で27周年を迎えます。ささやかながら家庭生活を営むことができているのも、家族の理解と協力があることと皆が健康に恵まれたお蔭と感謝する毎日です。
 昨年、夫の母が亡くなりました。晩年を介護施設で皆様のお世話になって過ごし、静かに天命をまっとうしました。老年期の過ごし方、家族を介護し看取るということなど、高齢化が急速に進む現代の日本に生きる一人として、考え、実践する機会を持つことができました。この経験をとおして、診療の際に高齢者の方々のお悩みや疑問に対し、私なりに親身にお答えすることができるようになったと感じています。さらに、一人残された舅と私の両親に、「年齢を重ねて生きる」ということを教えられながら生活する毎日です。

 ここからは、私の往く道。
命ある限り、人・社会の役に立つということを使命として過ごしたいと希望しています。そのひとつとして、医師会の仕事を通して、安倍首相が目標となさっている202030(2020年に主要なポストに女性が30%就任している社会にする)に貢献できればと考えています。さらに、高齢化の進む地元で、在宅支援の充実、患者搬送手段の計画、単身高齢者世帯の憩いの時間の創設など小さいことながら、考えうること、実現できることをこつこつと努力を重ねて実践していく毎日がこれからの私の往く道と考えています。小さな診療所の、小さなことしか思い浮かばず、小さなことしか実践できない医師の文章ですが、「こんな女性医師もいるのだな」ということで、第一線で活躍していらっしゃる皆様の気休めにでもなればと思います。