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人工知能時代における放射線科医

2018年9月6日放送2018年9月13日放送

2018年9月6日放送

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2018年9月13日放送

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「こんなことを言うのはたいへん失礼かと思うんですけど、放射線科医と病理医は将来AI(Artificial Intelligence)にとって替わられると聞いているので、放射線科医にはなりません」。
今年の1月、BSLの際に学生に画像診断の魅力を語り放射線科医としての将来を勧めた時に帰ってきた言葉です。
2016年にGeoffrey E. Hinton先生が「5年以内にDeep Learningの方が放射線科医よりも優れるようになるので、放射線科医の教育は止めるべきだ」という衝撃的な言葉を聞いた時のことを思い出します。

AIだけではないですが、最近のICT(Information and Communication Technology)技術の進歩の速さには驚きます。将来はこのような世界がやってくるのだろうと思っていた新技術が我々の日常で、皆さんの想像をはるかに超えるスピードで現実となりつつあります。
YouTubeで、Moley社のRobot KitchenやBoston Dynamics社のAtlas等のrobotをご覧になると実感されると思いますが、両者ともに一般への販売が開始されています。
AI(Machine Learning/Deep Learning)、Big Data、IoT/IoE/IoH (Internet of Things/Everything/Human)、VR/AR/MR(Virtual/Augmented/Mixed Reality)、Robotics、Wearable Device、5G等のあらゆる最新技術が放射線科の世界はもちろん、日常に広く利用されるようになります。

医学領域でもAIに関する論文が急速に増えている(1)のは皆さんも実感されていると思います。
Googleが提供していて我々でも使用可能なGoogLeNetを使用して、皮膚病変の写真でmelanomaかどうかを判断させたところ、その診断能が皮膚科医と同等であったとの論文が2017年Natureに発表されたのは衝撃的で、彼らは安価なスマートフォンアプリの可能性に言及しています(2)
その後、画像診断領域でも、胸部単純写真(3,4)、頭部CT(5)、頭部MRI(6)、骨軟部MRI(7)、肝臓CT(8,9)などAI関連の論文が次々と発表されつつあります。これらの論文に使用されているAIの多くは、様々な企業が無償で提供しているライブラリを利用したものです。
“AIの民主化”が進んでおり、誰でもAIを活用できる時代になりつつあります。
上記のライブラリを用いて個人農家の方がAIを活用したきゅうり仕分け機を経費2万円で開発した事例もあります(10)

昨年の北米放射線学会では、Curtis Langlotz先生が「AIが放射線科医の代わりになるかという質問に対する私の答えは『ノー』だ。しかし、AIを使用する放射線科医は、AIを使用しない放射線科医に取って代わるだろう」と述べています。
昨年の北米放射線学会のAIに対する異常な熱狂は驚くべきことでありました。AIと名が付くあらゆるセッションに講演開始の30分前に行かないと会場にさえ入れなかったのです。
それに対して、日本国内での盛り上がりは必ずしも高くありません。
「日々の業務で忙しくて、まだ先のAIを学ぶ余裕がないし、学んでも自分達では何もできず役に立たない…」なんて声が聞こえてきます。

我々が関与する、しないに関わらず、AIは確実に我々の業務に活用されるようになります。
「将来、AIが診断・治療方針の決定を行う時代が来ることは間違いなく、医学は飛躍的に進歩するとともに、医師が時間的・精神的余裕を獲得することにより医師の原点“人を癒す”に立ち返ることができる」と言われています。
先日、政府は、AIは判断を誤ることもあり得るため医師の診断を支援する機器と位置づけ、「最終的な診断や治療方針の決定と責任は医師が担う」との原則を医師法上の取り扱いで規定するとの方針を発表しました。
我々医師にとっては朗報ですが安心してはなりません。
米国のFDAは医師不要で網膜病変が診断可能なAI医療機器を販売する初の認可を本年4月に与えています。
我々医師が積極的にAIに関与して、国内の日々の業務に適合するようにAI開発の方向性をコントロールしていかなければならなりません。

東京大学の松尾豊先生が、日本はAI後進国で「世界で勝てる感じがしない、敗戦に近い」と警鐘を鳴らしています。
近年、日本の放射線科医が日々の業務増加の中でCT/MRI等のモダリティに興味を失いつつあると感じています。
同様にAIに対しても興味を持てずにいるままであったら、そのような放射線科医が必要とされなくなる将来を感じざるを得ません。CT/MRI等のモダリティなど最新技術に触れながら日々仕事をしており、最もAI等の最新技術に近い位置にいて親和性が高いのが放射線科医です。

これからの放射線科医はどのような存在になるべきでしょうか。
我々の将来を考えた時、画像情報のみならず、あらゆる臨床情報や臨床データにAIを活用して解析して診断を下すデータ・サイエンティスト像が浮かんできます。
放射線科医がAIと共存する次世代医療を創り上げるのは、若い放射線科医です。
「統計学を学ぶようにAIを学ばなければならない」時代です。

1) Litjens G,et al. Med Image Anal. 2017;42:60-88
2) Esteva A,et al. Natue 2017;542(7639):115
3) Lakhani P, et al. Radiology;2017;284:574
4) Raipukar et al. arXiv 2017
5) Prevedello M L, et al. Radiology 2017;285:923
6) Kunimatsu A, et al. Magn Reson Med Sci. 2018 [Epub ahead of print]
7) Trivedi Het al. J Digit Imaging. 2018;31:245
8) Yasaka K, et al. Radiology 2018;286:887
9) Yasaka K, et al. Eur Radiol. 2018 [Epub ahead of print]
10) https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/051100577

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