ラジオ番組 みんなの健康ラジオ
2025年6月5日放送(放送内容 資料はこちら)
皆さんにとって、膵臓がんという病気には「治りにくくて怖い」というイメージが強いのではないでしょうか。今回は、この膵臓がんについて、「どんな病気なのか」「早期の膵臓がんとは」、また外来でよく相談を受ける「腰痛=膵臓がん?」という点を中心にお話しします。
まず、日本のデータでは、膵臓がんはがんによる死亡数で第3位、罹患数では第7位となっています。発見時にはすでに進行しているケースが多く、5年生存率は約10%前後と非常に低く、予後の厳しいがんとされています。
そのため、早期発見がとても大切だと考えられています。過去のデータから、がんの大きさが1cm以下で見つかった場合には、5年生存率が80%以上と高いことがわかっています。このため、早期の膵臓がんとは「1cm以下の大きさ」であることが一つの目安とされています。
しかし、この1cm以下の膵臓がんを見つけるのはとても難しいのです。理由としては、まず小さながんは症状がほとんど出ないということ。そして膵臓はお腹の奥、背中側の深い場所にあるため、エコー検査でも脂肪や腸のガスの影響で見えにくいのです。また、健診でよく測定される腫瘍マーカー(CEAやCA19-9)も、早期の段階では上がらないことが多いです。つまり、小さな膵臓がんを見つけるのは、症状や一般的な検査だけではとても難しいということになります。
「腰や背中が痛くて、膵臓がんが心配」と言ってクリニックを受診される方がよくいらっしゃいます。たしかに、膵臓がんの症状として腰痛や背部痛が現れることもあります。ただし、これはがんがかなり進行している場合が多いです。
膵臓は背骨の近く、体の深い部分にあるため、がんが大きくなって神経を圧迫(浸潤)するようになると、腰や背中に痛みが出ることがあります。この痛みは慢性的で、なかなかやわらがないのが特徴です。また黄疸、食欲不振、体重減少など他の症状が一緒に現れることが多いです。実際に「腰痛」で受診された方が膵臓がんだった、というケースは非常に稀です。最近では、インターネットで「腰痛」と検索すると膵臓がんに関連した不安を煽る情報が出てくるため、心配になる方も増えています。
2025年6月12日放送(放送内容 資料はこちら)
今回は膵臓がんについて、「早期発見のためにはどうすればいいのか」「腫瘍マーカーCA19-9」についてお話しします。
どうすれば早期に見つけることができるのでしょうか?大事なのは、「膵臓がんのハイリスクグループ」にあたる方に、定期的な検診を受けてもらうことです。具体的には、
- 家族に膵臓がんになった方がいる方(家族歴)
- 新しく糖尿病を発症した、または悪化した方
- 慢性膵炎の方(特にお酒をよく飲む方)
- 膵のう胞性腫瘍(IPMN)を指摘された方
- 喫煙者(ヘビースモーカー)や肥満の方
こうした方々は、かかりつけ医に相談し、定期的に画像検査を受けることが推奨されています。中でもエコー検査は体に負担が少なく、比較的手軽に受けることができます。もしエコー検査で「膵管の拡張」や「膵のう胞」、「腫瘍」などが見つかった場合は、より詳しい精密検査が必要です。ハイリスクでない方も、年に1回程度、健診などでエコー検査を受けておくと安心です。
早期発見のために腫瘍マーカーは使えるでしょうか。膵臓がんの腫瘍マーカーとしてCA19-9が有名ですが、早期膵臓がんを見つけるマーカーというよりは、がんの治療の効果をみたり、がんの予後を予測するために使われるのが一般的です。
一方で「腫瘍マーカーのCA19-9が高い」と心配されて来られる方はとても多いです。問題なのは、「がんがないのに数値が高くなる」偽陽性が珍しくないという点です。肝炎・胆のう炎・膵炎・卵巣嚢腫・子宮内膜症・気管支拡張症・糖尿病・肝のう胞・腎不全(透析)などの病気でも上がることがあります。まずは画像検査をしっかり受けて、がんがないことを確認できれば、過度に心配せず、冷静に経過を見ていくことが大切です。
また、膵臓がん以外でも、胃がん・大腸がん・胆道がん・肺がん・乳がん・卵巣がんなど、他のがんで高くなる場合もあります。ですので、CA19-9が高い=膵臓がん、とは限らないということも、ぜひ覚えておいてください。
怖いイメージのある膵臓がんですが、リスクを知り、検査を活用することで早期発見につなげることができます。健康管理の参考にしていただければと思います。