ラジオ番組 みんなの健康ラジオ
2026年9月3日放送(放送内容 資料はこちら)
前立腺がんは、急速に進行する高齢化社会において罹患数が増加傾向にあり、2025年の部位別がん罹患数の予測では約10万例、男性がん罹患全体の17%を占め、男性部門での第1位となっています。日本人男性の約9人に1人が生涯のうちに前立腺がんにかかると推定されています。年齢別では50歳以降から罹患率が急激に高まり、70歳代で最も高くなります。一方、死亡数は第6位であり、5年生存率は92.1%と高く、早期に発見して適切な治療を受ければ、がんで命を落とす可能性は非常に低いといえます。
前立腺がんの根治的治療は、主に手術療法と放射線療法の2つに大別され、両者の5年・10年生存率に有意差はないとされています。高齢の患者さんにおいては、手術による侵襲を避けるため、放射線治療を選択する方も増加傾向にあります。放射線治療には複数の種類があり、主なものとして、コンピューター制御されたX線を用いた強度変調放射線治療(IMRT)、重粒子線治療、陽子線治療、そして放射線を放出する線源を前立腺内に留置し、内部から照射を行う密封小線源治療などが挙げられます。これらは、がんの悪性度や広がりに応じて、ホルモン療法(男性ホルモンを低下させる治療)と組み合わせて行われることもあります。
IMRTはX線をコンピュータで制御して標的臓器に照射する治療であり、現在最も広く行われている放射線治療です。従来は35〜40回程度の照射が必要でしたが、治療機器の進歩などにより、20回程度の寡分割照射が主流になりつつあります。1回線量を増やして治療回数を減らす寡分割照射は、患者さんにとって大きなメリットがある一方、放射線治療医にとっては、前立腺に近接する直腸への有害事象(放射線性直腸炎、放射線性膀胱炎など)の増加が懸念されます。こうした直腸有害事象への対策として、前立腺と直腸の間に生体吸収性ハイドロゲルスペーサーを注入する治療が導入されており、直腸被ばく線量の大幅な減少と有害事象の劇的な改善が報告されています。筆者自身も、大学病院からの依頼を受け、自身のクリニックの外来診療にて行っています。
2026年9月10日放送(放送内容 資料はこちら)
重粒子線治療と陽子線治療は、それぞれ炭素イオンと水素原子核(陽子)を高速に加速させた粒子線を照射する治療です。非常に大掛かりな治療装置が必要なため、施行できる施設はごく限られています。従来のX線治療に比べて周囲臓器への影響が少なく、体内の深い場所にある病変に適しているとされ、線量集中性という点では優れていますが、非再発率や生存率といった臨床成績には差がないとされています。
密封小線源治療は、弱い放射線を放出する線源を50〜100個程度前立腺内に留置し、内部から照射を行う治療です。麻酔や治療後の放射線管理が必要なため、2泊3日程度の入院が必要です。治療は麻酔下で行われ、放射線科医と泌尿器科医の連携のもとに施行されます。前立腺に照射される線量は他の治療に比べて多いため、高い治療効果が期待できる一方、術後に一過性の排尿障害が生じることが問題となります。外部照射やホルモン療法と組み合わせた治療は、ハイリスクがんに対して最も効果の高い治療とされています。留置された線源からの放射線量は2か月で約半分に、1年後にはほぼ消失しますが、施行後1年以内に患者が亡くなられた場合は、理由を問わず解剖を行い前立腺を摘出しなければならない決まりになっています。筆者は以前、この治療に15年間携わり、約1,600件を担当してまいりました。
以上のように、前立腺がん治療はその悪性度や病変の広がりによって選択肢が多岐にわたり、治療法の選択に迷う方も少なくありません。ご自身の年齢や他の疾患、ライフスタイルなどを考慮していただき、十分に納得したうえで治療を受けることが大切です。