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ラジオ番組 みんなの健康ラジオ

心身症としての過敏性腸症候群

2019年5月16日放送2019年5月23日放送

2019年5月16日放送

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2019年5月23日放送

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5月16日放送内容(放送内容 資料はこちら

心身症とは

「こころで起きる身体の病気」のこと。日本心身医学会の定義(1991年)では、身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的な因子が密接に関与し、器質的ないし機能障害が認められる病態をいう。「心身症」は特定の病名ではない。
代表的な心身症は別表の通り。

過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome; IBS)

1)定義
器質的疾患をもたず、大腸を中心とした腸管の機能異常により、慢性の腹痛あるいは腹部不快感、便通異常を主体とする症候群。ストレスと関連して発症することが多く、慢性に経過するので心身症としての取り扱いが必要な場合が多い。

2)疫学

  • 有病率は10%程度、実際に病院を受診する方は約3割程度。頻度のきわめて高い疾患で、消化器科外来の40~70%を占める。
  • 患者は若い人に多く、半数以上の患者は35歳以前に発病しており、女性に多い。
  • 多くの患者で発症時にストレスが見られる。

3)症状

腹痛、腹部不快感
便通異常 排便回数の変化(便秘、下痢、交替性)
便性状の変化(兎糞状/硬便、水様便/軟便)
便排出異常(便意切迫、残便感)
精神症状 不安・抑うつ・心気的症状。パニック発作や、外出恐怖、乗り物恐怖、会食恐怖などを合併し、登校や出社が困難となり、社会的機能が低下するケースもまれではない。健康関連QOL(生活の質)は大幅に低下している。

4)診断

特徴的消化器症状がみられること
器質的疾患を除外すること
  1. 器質的疾患を疑うエピソード
    [警告症状・徴候]発熱、関節痛、血便、体重減少など
    [危険因子]50歳以上での発症、大腸器質的疾患の既往歴、家族歴
  2. 鑑別すべき疾患
過敏性腸症候群でみられる検査結果
  • 一般血液、生化学、尿検査、糞便:異常なし
  • 腹部単純X線:大腸ガス像を多く認める
  • 注腸造影・大腸内視鏡:大腸の腫瘍、潰瘍性病変の除外

5月23日放送内容(放送内容 資料はこちら

5)脳腸相関
過敏性腸症候群の患者は心理社会的ストレスによって、消化器症状が発症・増悪する。典型的な心身症の病態を持つ。個々の患者は、不安障害、うつ病を伴うことが少なくない。過敏性腸症候群と不安・抑うつは双方向の関係にあると考えられる。
増強した内臓感覚や腸内細菌叢の変化が神経系・免疫系・生理活性物質を介して脳に影響を及ぼすと考えられる。

6)過敏性腸症候群の日常生活への影響
図のように、特に下痢症状の頻度やその起きやすい状況、腹痛から排便までの時間などにより、日常の行動が制限される。特に、頻度が多く便意切迫感が強いケースは、トイレが使えない、あるいはトイレの場所があらかじめ分かっていない場所や、電車などの乗り物に乗っているなどの拘束される場所や他人と同じ行動をしなければならない学校や仕事などの場面が苦手となってしまい、登校・通勤できなくなる場合もまれではない。
このようなケースは、パニック症と同様の経過を辿り、長引きやすく、根気のいる治療が必要となる。

7)治療

機能的疾患およびIBS病態生理の説明 ストレスなどによっておこる腸管の運動異常で腹痛が起こるが痛みは一時的であること、生命が脅かされるような病態ではないことを説明。
生活指導、食事指導 腸管の運動異常は、感染や感情的ストレスが契機になること、高繊維食を勧め、過労を避け、休養と睡眠を十分にとり規則正しい食事、生活を行うように指導をする。
薬物療法 基本的に身体症状に合わせて薬剤を処方
心理療法 精神療法、認知行動療法、自律訓練法、交流分析等を行う事もある。特にQOL(生活の質)が低下しているケースに関しては、積極的に取り入れる。

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