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ラジオ番組 みんなの健康ラジオ

パニック症

2022年9月15日放送2022年9月22日放送

2022年9月15日放送

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2022年9月22日放送

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2022年9月15日放送(放送内容 資料はこちら

不安や恐怖はヒトが危険から身を守るために必要な機能の一つであり、それ自体は正常な反応である。例えば、いままで経験していない状況で速やかな判断を迫られたり、将来の見通しが立たない状況に置かれたりする場合も、強い不安を抱くはずで、それは、今後の予測がつかない状況で、良くない結果を憂いてしまうからである。

一方で、険しい崖を登ったり、猛獣が潜む地域へ武器を持たずに侵入したりする場合に強い恐怖を抱くはずで、それは、当然のことながら死への危険を伴うからである。精神医学では、対象が明確でないものを不安、対象が明確なものを恐怖と呼び、区別して定義している。

近年の新型コロナウイルス感染症を例にとると、当初、致死率の高い疾患と考えられたため、世界中の人々が死への恐怖を感じたが、次第に疾患の重症度と比べて、不釣り合いな厳しい対応が続くことにより、今後の見通しの立たない不安が中心となっている様に感じられる。ヒトが進化する過程で遺伝子に組み込まれたものなのか、或いは、生まれてからこころの発達の過程で知識や経験から得られたものなのか、これからの研究が待たれる。

ヒトは、ストレスを感じるとコルチゾールというホルモンが分泌され、時に自律神経系が機能異常を起こし、様々な症状が出現する。予期せぬ動悸や息苦しさなどを感じるパニック症においても、精神症状だけでなく、自律神経系と関連した症状が出現する。

パニック症は、情動を司る大脳辺縁系の一部である扁桃体という領域との関連が指摘されているが、サルの実験で扁桃体を含む部分を切除することにより恐怖を感じなくなることが判っており、ヒトでも単純ヘルペス脳炎による同じ部位の障害で、同様の症候が出現する場合がある。

2022年9月22日放送(放送内容 資料はこちら

パニック症とはなにか、どういった不安が治療の対象となりうるのか。不安症状の結果、「日常生活に支障が生じているか」「一定期間、症状が続いているか」という点が診断の際に重要となる。すなわち、不安症状が出現し、結果として、「買物へ行かれない。出勤できない」といった状態が続いた場合、パニック症と診断される。ただし、他の身体疾患による原因を除くため、血液や心電図検査、脳画像検査などを行う必要がある。

治療に関しては、心理療法、薬物療法が代表的な治療となるが、契機となる出来事がはっきりしている場合は、環境調整を行った上で、心理療法を行って、その心理的要因と上手に折り合いがつけば改善を得られる。一方、契機となる事象がはっきりしない場合は、薬物療法が効果的である。薬物療法としては、セロトニン再取り込み阻害薬という薬剤が効果的だが、年齢、身体合併症、精神疾患の併存症などによって、個々の薬剤が選択される。

パニック症に伴う恐怖症やうつ症状に対しては、認知行動療法といった心理療法が効果的である。認知の歪みを是正し、苦手とする場所や状況に段階的に慣らして症状を緩和していく。また、森田療法やマインドフルネスも有効な場合がある。森田療法では、不安を取り除こうと意識することで、寧ろ不安に注意が向いてしまい、悪循環に陥ることを指摘している。
不安を「あるがまま」に受け入れて、「なすべきことなす」といった点を強調している。昨今の新型コロナウイルス感染症の感染拡大やウクライナ侵攻に伴う社会情勢の変化など先行きの見通しが立たない中で、今後、不安や恐怖に対するマネージメントや治療の重要性は高まるかもしれない。

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