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ラジオ番組 みんなの健康ラジオ

検査に関する誤解に答えます~及ばざるは過ぎたるに勝れり

2022年10月13日放送2022年10月20日放送

2022年10月13日放送

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2022年10月13日放送

以前、病気の診断には医師による詳細な問診が最も大切であるとお話しました。
科学の進歩に伴い様々な検査によって病気の早期診断や確定診断が可能になり、その恩恵にあずかっています。しかし、問診あっての検査なのであり、検査の有用性だけが一人歩きし、かえって皆さんが混乱してしまうことも増えています。今回は、そんな検査の誤解についてお話ししたいと思います。

よく、ご紹介患者さんに 「血液検査をしてください。今の時代、血液を調べればなんでもわかるんでしょう?」といわれますが、決してそんなことはありません。例えば通常の健康診断で行う血液や尿の検査では臓器の変調や新陳代謝の基本的な異常のみがピックアップされるにすぎません。

そこで異常が見つかった際には、症状や生活の状況などを問診した上で、医師が診断確定のために適切であると考えた項目を新たに検査するのです。
たとえば、肝臓の数字が悪いとでたら、その原因が、ウイルスによるものか、お薬やアルコール、食べ過ぎによるものなのか、免疫の異常によるものなのか、甲状腺の異常によるものなのか、あるいは生まれながらの新陳代謝の異常によるものなのかと言った具合に考えて、新たに検査をオーダーします。

また、逆のケースもありますね。「この前、大量に血液の検査をおこなったけど、それではわからないのですか?」と質問を受けることがあります。
そもそも、血液検査をしても診断がつかない病気が沢山あるわけです。
たとえば「右腕の筋肉が痛くて、肩が上がらないんです。リウマチや膠原病ではないかといわれて血液を調べても、診断がつかないといわれました。」と言う場合、実は「腕の筋肉」が痛みの原因ではなく、肩の関節周囲の問題であったりします。これは、肩関節の詳細な身体診察で簡単に診断が可能です。必要に応じて、肩関節の超音波検査も有用です。最も多いのは五十肩といわれる肩関節周囲炎ですね。

ほかにも「人間ドックでリウマチ因子があるといわれましたが、リウマチなんでしょうか?」と訪れる方もいらっしゃいます。リウマチ因子は関節リウマチという病気の方の8割に見られるのですが、健康な方にも見られることがあります。朝起きたときの手のこわばりや腫れがあるかなど、詳細な問診や触診を行ってはじめて関節リウマチの診断に至りますから、必要以上に心配してはいけません。

2022年10月20日放送

今回は、都市伝説のように信じられている検査についてお話しします。

「蕁麻疹がよくなりません。アレルギーの検査をしてください。」と訪れる方がいらっしゃいます。まず確実に6週間以上つづく「慢性蕁麻疹」かどうかを見きわめることが大切です。慢性蕁麻疹のうち原因がわかるのはわずかに1.6%にすぎず、しかも2年~5年で自然に治ることが知られています。有用な検査は白血球のうちアレルギーに関わる好酸球の数で、増えていればその原因を調べることになります。

「血液検査の腫瘍マーカーでがんの早期発見がしたいです。」と訪れる方がいらっしゃいます。肝臓がんのように慢性ウイルス性肝炎やその他の肝硬変といったがんリスクをもっている方には有用な場合もありますが、多くの健康な方にとって、早期がんの発見と言う目的での腫瘍マーカーは意味を持ちません。
たとえばCA19-9は膵がんの腫瘍マーカーとして有名ですが、2cm以下の膵臓がんでも52%であり、早期がんの検出には役に立たないとガイドラインにも示されています。

国では5つのがん健診、胃がんのバリウム又は内視鏡、大腸がんの便潜血2回法、内視鏡、肺がんのレントゲン、乳がんのマンモグラフィー、子宮頸がんの細胞診について“がんによる死亡率を減らす”ことが科学的に証明されているとし受診を勧めています。

最後に最近人間ドックなどで行われているPET-CTについてです。
たいへん画期的な検査ではありますが、アメリカの専門学会は“健康な人を対象にしたがん検診ではPET-CTを行わない”ことを推奨しています。健康な人でがんが見つかるのはおよそ1%とたいへん低く、また、明確な症状がないところで検査上の異常が指摘されると、さらに多くの検査や場合によっては診断のための手術につながり、健康上全く問題のないものであるという結論に達する可能性が高いことを指摘しています。

検査は正しく使えば健康を維持し、また早期治療に威力を発揮しますが、使い方を間違えれば、過剰医療につながり、検査の合併症や心の不安、経済的損失をもたらすことが、ヨーロッパ、アメリカを中心に叫ばれるようになりました。まさに先人の智恵の通り「及ばざるは過ぎたるより勝れり」だと思います。

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