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ラジオ番組 みんなの健康ラジオ

治療と診断の融合~セラノスティクス

2024年4月11日放送2024年4月18日放送

2024年4月11日放送

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2024年4月18日放送

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2024年4月11日放送(放送内容 資料はこちら

私たち医師は通常、がん患者さんの治療方針について話し合うとき、その患者さんと同じ病気の同じステージなど、似たような背景を持って治療した過去の他の患者さんたちの治療成績(エビデンス)をもとにしたうえで、年齢や合併症、ご希望などその患者さん特有の事情を考慮して、最適な治療を検討しています。
言い換えると、過去の患者さんの集団のデータの中に、目の前の患者さんを当てはめて治療方針の道筋をたてている、ということになります。しかし、いくら集団でみたときに効果があると証明されている薬剤でも、その患者さんにとって効果があるかどうかは、実際に薬をつかってみないと分からないのが実情です。

ここで、近年注目されているのが、セラノスティクスという手法です。
セラノスティクス(Theranostics)とは、治療Therapeuticsと診断Diagnosticsを合わせた造語で、診断が治療に直結するような考え方や、その手法のことを指します。

今までの診断が、何々がんのステージいくつです、と診断していたのに比べ、この治療が効きそうです、という診断をするイメージです。これによって、より個々の患者さんにあった治療をオーダーメイドに処方できるようになる(個別化医療)として期待されています。

特に私の専門とする放射線治療の分野では、放射性核種を使ったセラノスティクス(Radio-Theranostics)が目覚ましい発展をしていて、いまやセラノスティクスの代表格になっています。

Radio-Theranosticsでは、がん細胞に特異的に取り込まれる抗体や低分子化合物と放射性核種を組み合わせた薬剤(放射性薬剤)を使います。放射性核種の種類を診断用と治療用で使い分けることで、がんに薬が取り込まれることを事前に確認し、がん細胞の中から放射線を出して治療するイメージです。
次回はRadio-Theranosticsについて詳しくお話しします。

2024年4月18日放送(放送内容 資料はこちら

Radio-Theranosticsとは、がん細胞に特異的に取り込まれる物質と放射性核種を組み合わせた薬剤による、診断と治療を融合させた手法のことです。ポイントは、がん細胞に取り込まれる薬の構造は同じまま、中に組み込む放射性核種の種類だけを、治療用と診断用で使い分ける点です。

最初に、体の外から検出するのに向いている“診断用核種”を組み込んだ薬剤を患者さんに投与し、PETやSPECTといった精密な撮影機器で、体のどこに薬剤があるかを画像化します。こうすることで薬剤がしっかりと腫瘍に取り込まれるか、また正常臓器に異常に取り込まれていることがないかを確認することができます。

そして、この画像の結果で治療適応があると判定されたら、次にがん細胞を殺す力を持った“治療用核種”を組み込んだ薬剤を投与します。治療用核種が腫瘍細胞内から放射線を出すのですが、この放射線は大部分が、わずか数μm~数mmで止まってしまう性質を持つので、腫瘍細胞にだけ強い放射線が当たる、という仕組みです。

通常の放射線治療では、機械を使って体の外から放射線を当てるので、どうしても周辺の臓器などに不要な被ばくをさせてしまうのですが、この治療では腫瘍細胞内から照射できるので、究極のピンポイント照射と言えるかもしれません。実際、他の細胞障害性抗がん剤や分子標的薬に比較し、副作用が少なく治療効果が高かったという感想を持たれる患者さんや医師も多いようです。

残念ながら放射性医薬品であるが故に取り扱いなどが難しく、実施施設も全国で限られています。また、今のところ日本で薬事承認されている薬剤は、神経内分泌腫瘍という希少がんに取り込まれるものだけです。
しかし、欧米では前立腺がんに取り込まれる薬剤も承認されており、日本でも現在治験が進行中です。
そして、国内外で他の多くの癌種を対象とした新規薬剤の研究開発も進められています。将来的には、こうしたRadio-Theranosticsが、副作用が少なく治療効果を最大にした、がん治療の新たな柱になると期待されています。

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