ラジオ番組 みんなの健康ラジオ
においを感じる仕組み(放送内容 資料はこちら)
私たちは日々の生活の中で、においを意識しています。お花や好きな食べ物、香水や柔軟剤などのいい匂い、生ごみやトイレ、汗や蒸れた靴など、嫌な臭いなど様々です。においには特別な働きがあって、昔の記憶や感情が蘇ることがあります。
私個人の経験ですが、晴れた日に急な夕立が降ってきた時、その埃っぽいにおいがきっかけで、小学校の頃に土砂降りの中をずぶぬれになってゲラゲラ笑いながら下校した時のことを思い出します。このような経験は、プルースト効果と呼ばれ、においの刺激が記憶や感情を司る大脳辺縁系に直接働きかけるためです。
においの感覚細胞は嗅神経と呼ばれ、鼻の奥の方にある嗅上皮に分布しています。吸い込んだ空気の中ににおいの素である化学物質が混ざっていると、嗅上皮で嗅神経の表面にある受容体と結合します。特定のにおいの素と結合する受容体は決まっています。
受容体の種類ですが、人間では約400種類、犬では1000種類、アフリカゾウでは2000種類もある事がわかっています。視覚に関する受容体は、明るいか暗いかと色の三原色の4種類しかありませんので、嗅覚に関する感覚がいかにバラエティーに富んでいるかがわかります。
ペットとして犬を飼っている方はお分かりだと思いますが、四本足の動物は常に鼻を利かせながら歩き、食べられる物かそうでないのか、どのくらい遠くにあるのか感じることが出来ます。
1つの嗅神経細胞は1種類の受容体を発現しています。嗅神経は人間の鼻の中に1千万ほどありますが、受容体と結合することが刺激となり、いくつかの中継地点を経由して脳に伝わります。その経路には2種類あり、1つは記憶や感情を司る大脳辺縁系を通る経路、もう1つは他の感覚と同じ視床下部を通る経路です。
においによって心地よくなったり、昔のことを思い出したりするのは、感情や記憶と密接に結びつく経路を通るためです。
においの異常と病気(放送内容 資料はこちら)
においは、においの素が嗅上皮にある嗅覚神経の受容体に結合すると刺激が生じ、いくつかの中継地点を経由して脳まで伝わることで感じられます。においの異常、つまり嗅覚障害は様々な原因で生じます。においの素が嗅上皮まで届かない、嗅上皮の粘膜に異常がある、嗅神経からの繊維が頭蓋内に達するまでの経路の問題、においを理解する脳の問題など様々です。
嗅覚障害の種類として、においが全く感じられない嗅覚脱失、においが弱い嗅覚減退、本来とは違う匂いで感じられる異臭症、特定のにおいだけ感じない嗅盲(きゅうもう)、特定の匂いについて強く不快さを感じる嗅覚過敏などがあります。
嗅覚の検査で一般的に行われるのは、お薬を注射してにおいがするかどうかを見るアリナミンテストや、色々な香りを嗅ぐT&Tオルファクトメトリーという検査が一般的です。
嗅覚障害を引き起こす疾患として、副鼻腔炎、いわゆる蓄膿症や花粉症が有名です。それ以外にも、新型コロナウイルスは嗅覚障害を伴うことが良く知られていますし、普通の鼻風邪でもにおいが鈍くなります。交通事故などで頭を強く打ちつけると、嗅神経が頭蓋内に入る部分で断裂してしまったり、嗅神経そのものに腫瘍ができてしまったりすることもあります。また先天性の病気であるカルマン症候群や、アルツハイマー型認知症、パーキンソン病では嗅覚障害を伴うことが知られています。
最近、嗅覚リハビリテーションが注目されています。嗅神経はほかの神経細胞と異なり、再生するためリハビリの効果がある事が分かってきました。
自分が嗅いだことのある複数の香りを1日2回嗅ぐことで、新たな嗅覚の経路を作り直す効果があります。これを毎日継続し、3カ月ほどで別な香りに変更していくと、よりたくさんの匂いをかぎ分ける事が可能となります。嗅覚リハビリテーションは新型コロナウイルス感染後の嗅覚障害にも効果があるとされています。あきらめずに色々な香りを嗅ぐことをお勧めします。