ラジオ番組 みんなの健康ラジオ
2025年8月14日放送(放送内容 資料はこちら)
PRP(Platelet Rich Plasma:多血小板血漿)療法は、近年注目されている再生医療の一つです。患者さん自身の血液を使って、関節や筋腱、腱、靭帯などの損傷の回復を促す治療法です。2014年に再生医療等安全性確保法が施行されたことで、運動器疾患を対象とした治療として広まり始め、現在ではプロスポーツ選手の治療例なども報道され、一般的に知られるようになってきました。
PRPとは、患者さんから採血した血液を専用の機器で高速に回転させ成分を分離し、血小板が多く含まれた血漿部分だけを取り出したものです。血小板には、組織の修復や炎症を抑える働きを持つ「成長因子」が豊富に含まれており、これを患部に注射することで、治癒を促進することが期待されています。薬剤ではなく自分の血液成分を使うため、安全性が高く、副作用が少ない点も特徴です。
PRP療法は美容や脱毛治療、不妊治療など様々な領域で使用されています。整形外科領域では中高年の変形性膝関節症や変形性股関節症、急性期や慢性期の筋・腱障害、肉離れ、最近では腰痛などにも投与され、一定の効果が報告されています。ただし、どの疾患に対してどれくらい効果があるかについては、まだ研究段階の部分もあり、すべての人に同じ効果が得られるわけではない点に注意が必要です。治療効果の持続期間も個人によって大きく異なります。また、保険適用外であるため、医療機関ごとに費用が異なります。治療を受ける前には、メリットだけでなくデメリットや限界についても十分に理解することが重要です。
横浜市立大学附属病院整形外科では、2020年12月からPRP専門外来を開設し、2025年7月までに約2000件の治療を行ってきました。最も多いのが変形性膝関節症の患者さんで、約65%の方が症状の改善を実感されています。PRP療法に関する研究は現在、国内外で盛んに行われており、効果や安全性、最適な投与方法についての知見が徐々に蓄積されてきています。特に日本では高齢化に伴い関節の痛みを訴える方が増えており、手術を回避したいと考える患者さんにとってPRPは有力な選択肢の一つとなり得ます。
2025年8月21日放送(放送内容 資料はこちら)
PRP療法は変形性膝関節症の治療に多く用いられています。特に、ヒアルロン酸注射やリハビリでは効果が不十分な場合に、新たな治療の選択肢として注目されています。変形が軽度な初期の段階では効果が出やすいとされますが、進行した段階でも治療方法を工夫することで効果が期待できます。
その工夫の一つが、超音波診断装置を用いた注射です。PRP療法では、関節の内部に正確に薬液を届けることが非常に重要です。膝関節には炎症によって関節液がたまることが多く、超音波を用いることで、その液体の存在を確認しながら注射することができます。関節液を一部吸引し、わずかに残した状態でPRPを投与することで、薬液が膝関節全体に行き渡りやすくなり、治療効果を高めることができます。
また、膝の痛みは関節の中だけが原因とは限りません。特に内側の痛みには「滑液包」と呼ばれる部位の炎症が関与していることがあり、MRIや超音波検査で炎症が確認された場合には、関節内注射に加えて炎症部位にも直接PRPを注射します。こうした二重の治療アプローチによって、より高い治療効果が得られることがあります。
PRP療法は膝だけでなく、肩関節や股関節、アキレス腱、肘、手首、足首など他の部位にも使用されています。腱や靭帯の損傷にも効果が期待でき、スポーツ選手の早期復帰を支援する治療法としても注目されています。整形外科分野においては、保存療法と手術の間に位置する“第3の選択肢”として幅広く利用され始めています。
PRPにはさまざまな種類があり、白血球を多く含むタイプや少ないタイプなど、成分の違いによって炎症抑制効果や修復促進作用に差が出る可能性があります。成分や濃度、投与の方法や回数については、患者の状態や疾患ごとに最適な選択が求められます。現在、PRP療法は自由診療で行われており、1回あたりの費用は施設によって異なります。横浜市立大学では注射部位により費用が異なりますが1回3~4万円、3か月間毎月1回行うことを基本としています。
治療内容や費用について事前に十分な説明を受けることが大切です。PRP療法はまだ標準化された方法は確立されていませんが、今後の研究と臨床応用の蓄積により、さらに有効な治療法へと進化していくことが期待されています。