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ラジオ番組 みんなの健康ラジオ

せん妄

2020年6月25日放送2020年7月2日放送

2020年6月25日放送

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2020年7月2日放送

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せん妄について(放送内容 資料はこちら

私は、いわゆる総合病院に勤務している精神科医です。総合病院なので、多くの患者さんは精神科以外のお体の病気で入院されています。その入院中に、時折「せん妄」という合併症が出現することがあります。
せん妄が起きるとそのせいで転倒して骨折したり、入院期間が予定よりも長くなってしまうことが少なくありません。そのため、せん妄が起きないように予防していくことと、起きた場合に早めに対応していくことが重要です。

せん妄とは、意識と注意が障害される病気です。そして、それらの障害が、短期間に出現し、1日の中でも良くなったり、悪くなったりと変動しやすいことが特徴です。この特徴的な出現の様子を把握することが、あとに述べます他の疾患との区別のためにも重要です。

症状についてより具体的に解説します。
せん妄の時の意識障害は、「呼びかけても反応がない」といった単純な意識障害ではなく、一見覚醒し、受け答えもできる状態でも、自分がいる「場所」や「日時」、「状況」などを正確に把握する力、いわゆる見当識が保てなくなります。そして、回復後もその間のことを正確に思い出せないことが多いです。
注意障害は、文字通り注意力が低下するため、話している時も集中できず、落ち着かなかったり、キョロキョロして視線が定まらなかったりします。
注意障害を確認する方法として、「シリアルセブン(Serial 7)」があります。これは「100から7を順番に引いてください」と質問して、5回連続で計算をしてもらい、どのくらい正答できるかを確認する方法です。
「7」を引くというのがポイントです。途中で「あれ何を引くんだっけ?」と聞かれても教えてはいけません。「何を引くか」を覚えていられるかどうかも注意力の評価になります。

「過活動型」というタイプのせん妄は、それらの障害に加えて興奮したり、暴力的になったりします。一方、「低活動型」の場合は、興奮などのように激しい症状は見られないのですが、刺激がないとすぐに寝てしまったり、行動が緩慢になったり、食事が摂れなくなったりします。その結果、体が衰弱したり、「うつ病」といった他の疾患に間違われてしまうこともあるため、注意が必要です。

せん妄の症状は、認知症などの他の精神疾患でも出現することがあります。しかし、せん妄の場合は、短期間に急に出現し、1日の中でも変動しやすい特徴を捉えることが他の疾患との区別の時に重要です。

せん妄の主な原因として、脳の病気、低酸素状態、貧血などの意識障害を起こしやすい病気や、アルコール依存症の方がアルコールを急に止めた時などが挙げられます。
薬の副作用として、せん妄を起こすこともあります。その代表的な薬として、ベンゾジアゼピン系という種類の睡眠薬・抗不安薬が挙げられます。ただし、長期間服用している場合などに突然中止すると薬の離脱症状が起きることもあるので、ご注意ください。

せん妄の対策として、まずは起こさないように予防していくことが重要です。
せん妄を起こしやすい方は、高齢者や認知機能が障害されている方、脳の病気をしたことがある方、せん妄を過去に起こしたことがある方、アルコールを普段から沢山飲まれている方などです。そういう方々が入院して手術を受けたり、眠れないからといってせん妄を起こしやすい薬を服用すると、よりせん妄が起きやすくなります。また、暗い環境の病室や、病気や手術による疼痛、睡眠不良などはせん妄を助長させます。

そのため、同じ病室でもなるべく明るい窓際のベッドにしたり、日中はなるべく起きていただくように昼夜のリズムを崩さないようにすること、カレンダーや時計、家族の写真などを病室において日付や状況などを意識していただくように工夫していくことが重要です。

せん妄を起こした場合の治療としては、まずは原因となっている病気の治療や、薬を中止することが優先されます。治療として、時に抗精神病薬といったタイプの薬が使われることもあるのですが、それらの薬にも副作用があることや長期間は使用しないことなどを考慮する必要があります。

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