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ラジオ番組 みんなの健康ラジオ

物忘れだけが認知症ではない

2021年1月21日放送2021年1月28日放送

2021年1月21日放送

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2021年1月28日放送

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1月21日放送内容(放送内容 資料はこちら

認知症というと「物忘れ」の病気、という印象が強いですが、実は認知症では物忘れ以外にも多くの症状があります。今回と次回は、物忘れ以外の認知症の症状について考えてみます。

認知症のお年寄りによる交通事故が時折報道されますが、事故の原因で一番多いのは、ブレーキとアクセルの踏み間違いだと言われています。とっさにブレーキを踏まなければいけない状況で、間違ってアクセルを踏み込んでしまう、という運転操作ミスです。

このようなミスは物忘れのせいで起きるわけではありません。つまり「運転の仕方」を忘れてしまったせいではないのです。運転の仕方など、身体が憶えている記憶のことを「手続き記憶」と呼びますが、手続き記憶は認知症になってもなかなか忘れることはありません。

では認知症になると、なぜこのようなミスをしてしまうのでしょうか。
速度を落とそうとする時、ドライバーは足をアクセルから離し、隣にあるブレーキペダルの上に移してそれを踏みこみます。この時ドライバーは意識することなく「ここにブレーキがある」と判断する位置に足を移します。当たり前の動作のようですが、この時「空間認知機能」という脳に備わった機能が重要な役割を果たします。

空間認知機能とは、物と物の位置関係や、物と自分の身体の位置関係を正確に把握する機能です。普段は意識しませんが生活する上でとても重要な機能です。

認知症ではこの空間認知機能が低下することがあります。空間認知機能が低下するとブレーキがあると思っている位置と、実際のブレーキの位置にズレが生じることがあります。そのような時、とっさにブレーキを踏むつもりでアクセルを踏んでしまう、ということが起こるのです。

1月28日放送内容(放送内容 資料はこちら

脳は部位によって司る機能が異なります。空間認知機能は、脳の上の方の頭頂葉という部位が司っています。
代表的な認知症であるアルツハイマー病では、記憶を司る側頭葉と共に、この頭頂葉の機能が早い時期から低下することが知られています。人によっては物忘れよりも先に空間認知機能の低下が目立つこともあります。

前回はブレーキの踏み間違いついて述べましたが、空間認知機能の低下で起きる症状は他にもあります。
運転中にどちらに曲がるとどの道に出るのかという、車と道路の位置関係が分からなくなると、間違った方向に進み道路を逆走してしまいます。目の前の風景が、別の場所とどういう位置関係にあるのかがわからなくなってしまうと、よく知っている近所でも道に迷って自宅に帰れなくなってしまいます。
服の袖口や裾と、自分の腕や頭の位置関係がわからなくなると、服をひとりで着ることが難しくなります。

ここまで重症でなくても、車庫入れが苦手になって車体の傷が多くなったり、椅子に座り損ねて転んだりすることが多くなったりしたら、空間認知機能の低下を疑います。

空間認知機能の状態を調べる簡単な検査として「時計描画テスト」というのがあります。
紙と鉛筆を用意して「10時10分を示している時計の絵を描いてください」と指示します。時計の枠組みである円周、文字盤の数字、長針と短針を描くのです。
簡単なようですが、空間認知機能が低下していると円周が歪んだり、数字の位置が不適切だったり、長針や短針の位置が違ったりするなどのエラーが見られます。

このテストは高齢者の運転免許更新の時に認知機能検査として実施されています。心配な方はご自分で試してみてください。

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